ドイツの高校教師と生徒が考案、最も成功した減価する貨幣「Chiemgauer」が変えた地域経済(前編)|Freewillコラム

/ 8月 24, 2019/ NEWS

谷口 貴久 Freewill COO/Valueism CEO

ドイツに移住、起業しています。 社会問題に対して、自分の頭で考えて行動したかったからです。 環境に良いものの輸出入と、地球環境保護の為の『時間と共に価値が減るお金』の発行に取り組んでます。 Facebookプロフィールはこちらから。

こんにちは。谷口 貴久(たにぐち たかひさ)です。

前回のコラムでは、『お金も時間と共に価値を失えば、世界は良くなる』について紹介させていただきました。

実は、私が自信を持ってこのお金の仕組みを推奨できるのは、まさに成功しているプロジェクトがドイツに現存しているからです。

今回は、現在ドイツで流通し、大成功をおさめている、「時間と共に価値が減る」地域通貨について紹介させて頂きます。

前回の記事を読みたい方はこちら!
お金で交換できる地球の資源や人の時間と同じように、「時間と共に価値が減っていくお金」が使われていた国の成功例なども交えて出来るだけわかりやすく掲載しています。 お金も時間と共に価値を失えば、世界は良くなる(前編)|Freewillコラム お金も時間と共に価値を失えば、世界は良くなる(後編)|Freewillコラム

お金は何のために生まれたのか

はじめに、お金の機能のおさらいですが、お金には以下の3つの機能があると言われています。

  • ①交換
  • ②保存
  • ③尺度
「①交換」は何かを買う、といった機能です。「②保存」は銀行に預けるや金庫に蓄える、といった機能ですね。「③尺度」はものさしです。「1,000万円の家」と「10億円の家」と聞くと、あとの方は、豪邸を想像するはずです。

この3つの機能がお金に備わっていることは、今や当たり前のようになっていますが、それを確かめるために、お金の起源をたどってみましょう。

昔は物々交換が主流だったと言います。自分が「肉を持っていて、魚が欲しい」のであれば、「魚を持っていて、肉が欲しい」人を見つける必要があります。かなり不便ですね。

そこで仲介物として、「貝」など(他に、石、稲、金など)が使われるようになりました。そのため、今もお金に関係する、財/貨/資/賃/購/買/貿/貯などの漢字には、「貝」という字が入っていますね。

これらの仲介物は、持ち運びやすいなどの理由から、「交換」に適しているだけでなく、「保存」にも適しています。一番早く腐りそうな「稲」でさえ、肉や魚に比べれば、保存がきくでしょう。

肉や魚を持っていても、腐ってしまっては元も子もないので、なるほどこの「保存」機能は、当時の人たちにとって、とても魅力に映ったかも知れません。

ですが、やはり本来最も重要だったと思われる機能は「交換」、引いては循環であり、(行き過ぎた)「保存」という機能は、循環を止めてしまうという意味では、余計なものだったかも知れません。

「尺度」も、ものさしという意味で、一見便利な機能のようですが、お金ではかれないものは、すべて無価値だとしてしまう性質をはらんでいます。現在、お金でははかれなくても、尊い活動はたくさんありますが、それらは軽んじられる傾向にあります。

つまり、お金はもともと「交換」のために生まれたもので、経済という生きものの中を、血液のように循環するものであるから、「交換」機能に特化すべきなのではないでしょうか。

成功を収めているドイツの地域通貨

「交換」機能に特化した結果、ドイツで大成功を収めた「地域通貨」があります。

昨今、「ブロックチェーン」という技術が発明され、その技術を利用した「地域通貨」が一躍脚光を浴びました。

日本でも、2017年12月から、飛騨信用組合が、地域経済の活性化を目的として、高山市/飛騨市/白川村の加盟店で利用できる「さるぼぼコイン」の運用を開始して有名になりました。今では、市役所窓口に行かず、自宅からの市税等納付にも利用できるそうです。

ただ、地域通貨はブロックチェーン技術が発明される前からも、試みがあったそうです。 イギリスの老舗新聞紙、『The Guardian』の2011年9月23日の記事によると、イギリスでは、地域経済活性化の目的で、Lewes、Totnes、Brixton poundsといった地域通貨の導入を試みたそうです。

ですが、どれもうまくいかなかったそうで、唯一、圧倒的にうまくいっている地域通貨として、ドイツの「Chiemgauer」が挙げられています。

同記事では、ドイツのChiemgauerだけが成功している理由として、同地域通貨が「時間と共に価値を失う」ことが挙げられています

ここで、Chiemgauerについてもう少し詳しく見ていきましょう。

ドイツの地域通貨「Chiemgauer」とは

引用:https://www.ovb-online.de/rosenheim/chiemgau/chiemgauer-mehr-folklore-9741140.html

この地域通貨は、ドイツで経済学を教えていた“Christian Gelleri”という人と、その教え子であった16歳の子どもたちにより、2003年になんとスクールプロジェクトとして始まったそうです。この地域通貨はその地域の名前であるChiemgauにちなんでChiemgauerと呼ばれました。

この教師は、ドイツ人経済学者/実業家であり、「時間と共に価値が減るお金」の理論を提唱していたSilvio Gesell(1862年~1930年)から影響を受け、このプロジェクトを思いついたそうです。

1年目は、10に満たない地元の商店、130人の消費者、75,000ユーロ(約980万円(※1ユーロ130円換算))ほどの流通量に終わります。

ですが2010年、発行からわずか8年ほどの時間で、Chiemgauerは、600の商店、2,500の消費者、5,100,000ユーロ(約6億6千万円)の流通量となり、たちまち世界で最も成功した地域通貨となります。

また、Chiemgauerによって発生した、地域NPO(非営利活動法人)への貢献額は100,000ユーロ(約1,300万円)となります(※こちらの仕組みは下で説明します)。

以下は、Chiemgauerの仕組みを簡単にまとめたものです。

  • 3か月のみ有効なお金。3か月を過ぎて利用したければ、その額面の2%の代金を支払い、スタンプを購入する必要がある(50Chiemgauer(=50ユーロ)であれば、1ユーロを支払う、といった具合)
  • つまり、1年間で8%価値が減る
  • 商店は初期登録費用として100ユーロを支払う
  • 商店はその売上規模に応じて、5~10ユーロを支払う
  • 商店はChiemgauerのコミュニティに参加することで、無料のマーケテイング(広告)の機会を得る
  • 手に入れたChiemgauerは、5%の手数料を支払って、ユーロに交換可能(100Chiemgauerであれば、95ユーロと交換、といった具合)
  • 消費者はChiemgauerを使い始める際に登録を行う必要があり、その際、230からなる地元のNPO(非営利活動法人)を選択する
  • Chiemgauerによって生まれた収益は、そのNPOに自動的に流れる仕組みになっている
  • Chiemgauerの手数料等は、40%が運営費用に、60%がNPOに流れる
  • このコミュニティは、地元の銀行小規模等とも協力し、小規模ビジネスのために、無利子のマイクロクレジット(小規模融資)も提供する

これらは一見、消費者にとって得がないようにも見えますが、消費者はこの仕組みに対して満足しているようです。なぜなら、地域のコミュニティに貢献できますし、ほとんどの人は単純に消費者ではなく、生産者(商店)でもあるからです。

Chiemgauerが流通する(決済に使われる)速度は、ユーロと比べ、2.5倍にものぼるそうです。

また、その地域で経済が活性化し、地産地消を促進するため、流通の必要性も減り、温室効果ガスの排出削減にも効果的で、まさに環境的にも経済的にも優しい仕組みだと言えます。

現在の流通量である5,100,000ユーロ(約6億6千万円)は、地域通貨にしては多大であるとはいえ、その地域の総決済量の約0.2%に過ぎないですが、Christian Gelleriまで50%をまかなうことを目論んでいます。

この地域通貨の各ステークホルダー(関係者)の良い側面は以下です。

地域
  • 地域の活性化/循環
  • 流通の集中化
  • 地域の雇用促進
商店
  • マーケティング(広告)
  • 流通の集中化
  • 協業
顧客
  • ボーナス(NPOへの貢献等)
  • 情報
  • データ保護
行政
  • 税収
  • 地域の活性化
NPO
  • 資金調達
  • 収入
  • 協業
銀行
  • 顧客との濃密な関係
  • 新規顧客獲得

次回は、これほどの良い側面を誇るChiemgauerが、現状はどうなっていて、これからはなにを目指しているのか、実際に現地での取材をふまえて報告したいと思います。

ドイツの高校教師と生徒が考案、最も成功した減価する貨幣「Chiemgauer」が変えた地域経済(後編)|Freewillコラム

後半記事では、時間と共に価値が減る地域通貨Chiemgauerの現状と今後の進展についてお話していきます。ご期待ください。

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