ステーキング入門編:PoS基礎知識から報酬、仮想通貨の比較まで分かりやすく解説|ビットコイン研究所コラム
ビットコイン研究所は、Cosmos、TezosなどのブロックチェーンのStaking-as-a-serviceを提供するStirから定期的にレポートの提供を受け、今後共同でProof of Stakeの技術や市場の研究をしていくことになりました(公式アナウンスリンク)今回は第一回目ということで、Nodee by CoinPostでレポートの内容の一部を一般向けに公開します。
以下のコラムはStir共同創業者&COOの「うどん」さんからの寄稿です。
今後Stirでは以下のような内容についてビットコイン研究所でレポートを提供します。
- 各Stakingプロトコルの簡単な比較
- Staking Poolの技術や実態、課題の研究
- Stakingのロック率などのネットワーク情報
- コインの価格と出来高、他の数字との関連性
- 取り扱いコインや、調査対象に入れているコインの分析等(Ethereum 2.0の仕様含む)
今回は初回ということですのでステーキングとは、から書いていきたいと思います。
ステーキングとは何か
BitcoinではProof of Work(PoW)が取られていますが、それ以外にも様々なコンセンサスアルゴリズムが出てきています。そして最近日の目を浴びてきているのがProof of Stakeという仕組みのものでしょう。そしてBitcoinではProof of Workすることをマイニングというように、(各通貨独自の用語を使うこともありますが)概してProof of Stake(PoS)することをステーキングと言います。
ステーキングはネットワークの認証作業や維持作業など、プロトコルによって定められている動作に動作に基づいて行い、仮想通貨で新規発行された分や手数料などの報酬を得る行為のことを指します。報酬はステーキングされている分に応じて確率的に配布されます。ここら辺はProof of Workと同じですね。
このProof of Stakeは、実は今に始まったことではありません。
1/ How did Proof-of-Stake evolve?
— Chorus One (@ChorusOne) August 14, 2019
2012: Sunny King coins the term staking and releases @Peercoin
2013: Cryptocurrencies like @NxtCommunity pick up the concept
2014: – @JaeKwon releases Tendermint whitepaper
– @VitalikButerin starts writing about @ethereum's move to PoS
PeercoinやNxt、Bitshares… 名前くらいは一度聞いたことがあるのではないでしょうか?
さて、最近研究開発が進み、最近2つのトレンドが出てきています。
- BFT PoS
- Beacon PoS (Node-Base Consensus)
BFT PoSは、BFTのメカニズムとProof of Stakeを融合させたものです。Tendermintやそれを搭載したCosmosなどが有名ですね。現在メインネットで実装されています。
もう一つは特にEthereumなどで研究開発が進んでいるBeacon Chain、Shardingを導入したProof of Stakeです。こちらは、一定の固定額を担保として預け入れ(Ethereumの場合32ETH)、台数ベースのコンセンサスを行うというものです。EthereumではMainNetに実装されているものではありませんが、2020年の実装を目指し研究開発が行われています。(2020年のPhase 0時点ではShardingはなしですが)
またProof of Stakeにより、以下のような特徴があり、最近のチェーンの多くはProof of Stakeを採用しており、また今後もEthereumのように実装が予定されているものが多々あります。
- Finality(ブロックチェーンが後から必ず覆らないこと)を得ることができる
- ネットワークの認証作業に、比較的簡単に参入できる
- 比較的地理的分散性を確保しやすい
- チェーンの処理速度を向上させやすい
報酬のKPIと変数の数(報酬の不確定度合い)
Proof of Work
Proof of Workでの報酬のKPIはざっとこんな感じになります。
(自分のマシンのハッシュパワー(計算力)/ 全体のハッシュパワー)× 全体のブロック報酬 − 電気代 – マシンの代金
また、最初にマシンに対する初期投資が必要なため、そちらの不確定要素があります。もしかしたら購入後より良いマシンが出てくるというリスクも存在します。ASICの場合はより良いASICが、ASICがないPoWコインはASICが出るといったことでゲームチェンジは普通にありえることです。
また実際にマイニングしてみるとわかるのですが、電気代(マシンを走らせる際とその冷却代)が非常に大きくなってきます。電気代はマシンの数が増えるのに比例して増えるので電気代は死活問題です。
中国だと8円/kWh程度なのに対して日本では20円/kWhと、非常に差をつけられており、地理的格差が存在します。水力発電を自力で立ち上げてとかだとまた違うかと思いますが。
また、万が一収益が立たなくなって撤退する際にも、追加で撤退コストがかかります。
当然のことながら、仮想通貨の価格にも左右されます。なのでマイナーたちは(特にBitcoinとかでは)先物を使ってリスクヘッジするケースが見受けられます。
Proof of Stake
Proof of Stakeの場合は以下のようになります。
(自分の保有量 / 全体の保有量)× 全体のブロック報酬 − サーバーの代金
Proof of Stakeの場合、一概には言えませんがおおよそこのような式になるかと思います。
多くの場合、自身の保有量を増やそうが減らそうがサーバー代金はほぼ固定です。ただ、Ethereum 2.0で予定されているステーキングの仕組みにのように「32ETH以上持っていても同一の額とみなす。より多くをステーキングしたい場合複数のサーバーを立てなくてはならない」というものも中にはあり、一概には言えません。
それでも、電気代やサーバーの場所に”あまり”左右されず、マシンの流行り腐り等もProof of Workのような早いペースで起こるといったこともないので、比較的変数は抑えめかと思われます。そして当然のことながら、ステーキングも仮想通貨の価格にも左右されます。
数字から見るProof of Stake
利率
まずは年利についてです。(データについてはStakingrewardsというサイトからとってきています)
Cosmos:10.05%(先月比:-0.4%)
Tezos:6.99%(先月比:-0.14%)
IOST:11.68%(先月比:-2.63%)
どれも先月から減ってますね。
Cosmosについては、仕組み上一定額(2/3以上)がロックされると、インフレ率は変わらなくなり、結果として自身が受け取れるリワードの額が減っていく仕組みとなっています。 0.4%減ったのは主にCosmosの財団であるinterchain Foundationが、いくつかのValidatorにDelegateしたのが原因ですね。計7,131,000Atomが委任されました。
https://www.mintscan.io/account/cosmos1z8mzakma7vnaajysmtkwt4wgjqr2m84tzvyfkzTezos の利率は先月比で微減(-0.14%)しており, IOSTはこの3つの中で一番減少しています(-2.63%)。
ロック率(Staking Ratio)
これはどれだけステーキングのためにロックされているのかという利率です。大抵の場合ただ保有するだけでは報酬はもらえず、ステーキングに参加するというトランザクションを投げる必要があります。これによりステーキングが有効化されるのです。
そのステーキング率について見ていきましょう。
Cosmos:72.57%
Tezos:78%
IOST:33.47%
こちらについては先月のデータが見当たらなかったので来月から比較して観測していきます。
他社のValidatorの分析
各チェーンのValidatorたちのシェアについて見ていきましょう。
Cosmos
CosmosについてはBFT Chainな性質上、1/3のシェア(これ以上がダウンするとネットワークが止まる)と2/3のシェア(これ以上が悪意あるものだとネットワークが改竄される)が大事なものとなってきます。
現状Cosmosでは上位6Validatorで1/3、上位17位までで2/3を占める状況となっています。
At block height 11550
— Decentralize Cosmos (@cosmosdecentral) April 23, 2019
14 validators control 2/3 of the stake
5 validators control 1/3 of the stake
このツイートがされたローンチ直後よりは分散化されてはきてますが、まだ道は長いですね。
Tezos
上位にFoundationのValidatorが目立ちますね。30%近くが財団によってベイキング(Tezosはステーキングのことをこう呼びます)されているようです。
トータルで172台のBaker (Validator)が立ち上がっており、トップも5.24%くらいであり、財団の分を抜けば比較的分散化されているようです。(Cosmosはトップが7.53%、100台のValidatorが有効です。)
IOST
IOSTはこんな感じです。Huobiが圧倒的ですね。10.76%のシェアを握ってます。また国も中国とケイマン諸島(タックスヘイブン)がほとんどとなってます。いわゆる中華銘柄と呼ばれるのが分かりますね。そこまでえげつないほど集権化はしていなさそうです。
まとめ
- ステーキングの概念自体は昔からあったが、近年の研究開発により、Finalityの確保やスケーラビリティーの向上といった利点を獲得し、進化を遂げています。
- PoWはパワーを上げたい場合マシンに費用が(規模の経済性はあるものの)比例して増えるが、PoSの場合サーバー代は基本的に一定です。
- Cosmosなどは仕組み上一定額がロックされると、インフレ率は変わらなくなり、結果として自身が受け取れるリワードの額が減っていく仕組みとなっています。そのためロック率が大切な指標となってきます。
- ネットワークの Top Validatorでも10%以下と、そこそこ分散化は達成されていますが、現在進行中でさらなる分散化が進んでいます。